アフターピル
ついつい避妊に失敗しちゃった。そんなときに飲む薬を聞いたことがある。
妊娠したら怖いからまずはネットで検索して調べてみよう。
そんな経験ありませんか?アフターピルは性交渉後、妊娠の可能性がある場合に一定の時間以内に内服することで、妊娠の確率を下げることができると言われている薬です。
妊娠を望まない性行為でアフターピルを希望されるには様々な理由があります。
・避妊に関する知識がそもそもない。
・避妊具を準備するのを忘れたが行為に及んでしまった。
・避妊具を装着していたが、装着が不十分または避妊具が損傷して避妊に失敗した。
・元々ピルを飲んでいたが飲み忘れてしまった、または飲み方を間違えた。
・望まない、予期しない性行為があった。
などです。このような様々な事情から行為後に”妊娠していたらどうしよう”と不安になる女性も多いのです。
多くの女性は後ろめたい気持ちを抱えているケースも少なくないため、できるだけ誰にも知られないように対処しようと考え、人目につくような産婦人科には受診せず、いかに手軽に薬を入手するかを考えようとします。
実際にネットで「アフターピル 即日」、「アフターピル オンライン処方」など調べると沢山の検索結果が出てきます。
すべてオンラインで完結し、一見便利そうです。
でも便利な反面、注意すべきこともあります。
今回は産婦人科医としてお伝えできることをきちんとお伝えしようと思います。
まず、薬には国内承認の薬剤とそうではない薬剤があります。
日本ではアフターピルについては2種類の薬剤のみが国内承認されています。
ノルレボとレボノルゲストレルです。
レボノルゲストレルはノルレボのジェネリック製剤です。
ともに性交渉後の72時間以内に服用する必要があり、妊娠阻止率は約85%と言われています。また、できるだけ行為後、早く服用する方が効果が高いと言われています。24時間以内の服用であれば約95%の阻止率と言われます。
副作用としては不正性器、吐き気、頭痛、倦怠感、疲労感、眠気、めまい、胸の張り、月経の遅れなどが言われています。
ノルレボもレボノルゲストレルも黄体ホルモンのみを含むホルモン剤であり、エストロゲン成分は含まれていないので、一般的なピルで言われている血栓症については基本的には心配ないとは言われています。
厄介な副作用としては不正性器出血、月経の遅れです。
アフターピルでの妊娠阻止率は100%ではないということに注意してください。
つまり、不正性器出血も月経の遅れも妊娠が成立した際も着床出血や不正性器出血は起こりえるのです。
あ、アフターピルの副作用かな?と思っていたら、実は妊娠していたということもあります。
なので、アフターピルを服用した際には飲んで安心するのではなく、きちんと次回の月経が来るのかどうかもしっかりと観察する必要があります。
現在エラワンという性交渉後120時間以内まで内服可能なアフターピルも出ていますが、まだ日本では未承認です。(当院では取り扱いはありませんが、きちんとした産婦人科でも処方されているので、72時間以内に服用できなかった方には良いかと考えます。)
それでは、なぜ未承認薬はよくないの?という疑問もおありかと思います。
もちろん未承認薬でも効果があるものもありますし、安全性が比較的高いものもあります。
しかし、未承認薬については基本的に副作用で重大な後遺症が起こったとしても国による薬剤の副作用に対する救済制度の対象にはならないのです。
何かあったとしても基本的には自己責任ということになります。
また、問題はそれだけではなく、オンライン診療においてはきちんと知識のある産婦人科の医師が説明して処方するケースもありますが、そうでない医師が処方するケースもあり、処方される薬剤についても質はバラバラなのです。承認薬をきちんと処方してくれるクリニックもありますが、利便性が良いオンライン診療の場合は、きちんと調べてからでなければ英語で書かれた生産国もよくわからないアフターピルを処方される場合もあります。
生産国もよくわからないアフターピルについては薬の成分が一定でない場合もあり、その場合は効果も記載されているような割合でないケースや副作用が異常に強く出てしまうケースもあると想定されます。
では安いのか?
否。診察料やシステム利用用、配達料などがかかってしまい、結局のところ、きちんとしたクリニックで処方を受けるよりも高額になるケースが多いようです。
宅配してくれたり、宅配ボックスで受け取れるケースがあり便利な一方、高額な割に正規のアフターピルを処方してもらえないケースもあるということはきちんと理解した上で利用すべきです。
→妊娠阻止率が安定していない可能性があること、予期せぬ副作用が起こる可能性があることは十分理解すべきです。
どちらにせよ、きちんと産婦人科で処方を受けても、そうではないオンライン診療で処方を受けても、きちんと月経が来ることを確認するまでは安心できないのは確かなので、そこまではきちんと避妊をして、ご自身の体の変化を見る必要があります。
また、一応緊急避妊法としては正規の方法で、かつ少し安価ではありますが、妊娠阻止率が低く、あまりおすすめではない方法もあります。
ヤッペ法といい、中用量ピルを内服する方法もあります。こちらは性交渉後72時間以内にプラノバールという薬剤を2錠を12時間毎に2回(計4回)服用する方法になります。2錠の薬剤を2回服用する必要あるので、それだけでも飲み方を間違えれば妊娠してしまう確率が高くなります。妊娠阻止率については約58%との報告があり、かなり差があります。
知り合いから避妊できる薬をもらったと言っても飲み方を間違えて妊娠してしまっていたということもあります。知り合いに薬をもらう行為はそもそもよくありませんが、何よりも飲み方や副作用をきちんと理解していないことが問題です。
万が一、妊娠していたら?
ここからのお話は中絶のことをお話しするので、少し聞き苦しい部分もあります。その上で閲覧いただけますと幸いです。自分の体がどうなるのか、赤ちゃんがどうなるのか、そういったこともきちんと知ることで避妊の大切さがよりわかると考えます。
辛いこともお伝えしますので、以降は本当に覚悟のある方のみ閲覧ください。
望まない妊娠に至った場合、中絶する決断をする方がほとんどです。
中絶に対しては賛否ありますが、こちらではその議論については差し控えます(望まないとい理由には様々な事情があり、倫理的にも議論が難しい事柄です)。
まず中絶を決めるにあたり、中絶が可能な妊娠週数があります。
妊娠21週6日までに中絶を行わなければ、それ以降はいかなる理由であっても中絶は認められません。それ以降に中絶を行うことは母体保護法に違反し、「堕胎罪」により処罰される可能性があります。
月経不順の方がアフターピルを飲んで安心していたところ、いつも月経不順だし、今回また月経が来ていないけど多分大丈夫かな?と放置していると気づけば妊娠週数が経ってしまっていたということも考えられます。
アフターピル内服後、3週間~1か月経過しても月経が来ない場合は妊娠反応検査をする、きちんと診察を受ける必要があります。
また、妊娠11週6日までの中絶を初期中絶と呼び、妊娠12週0日~妊娠21週6日までの中絶を中期中絶と言います。
ともに共通している点は自由診療であること。つまり全額治療費は実費負担になります。
また、手術に対して必ず本人の同意が必要です。配偶者や事実婚のパートナーがいる場合はDVや別居など特別な事情を除き、配偶者やパートナーの同意も必要となります。また、未成年であれば本人に加え、保護者の同意も必要となる場合があります。
ただ、実際が相手に言えないケースや親に言えないケースなど事情は様々であり、自分ひとりで抱えてしまう場合は
①中絶を実施している医療機関に相談する(医療機関により必要な同意が異なるケースがあるため)。
②保健所や役所の相談窓口に相談する。
③弁護士に相談する。
など、まずは相談をしてみることをお勧めします。妊娠週数が進むと対応できない医療機関や手術による体への負担も増大するため、出来るだけ早めの相談が望ましいです。
また、ご自身に子宮の奇形があったり、合併症がある場合はクリニックでは対応できず、総合病院での万全な対応をお願いされるケースもあります。検査が必要になったり、中絶後にも十分な対応が必要になるケースもあるので、早めの受診が大切です。
続いて、この初期中絶と中期中絶の違いについて説明していきます。
【初期中絶】
・妊娠11週6日までの中絶
・費用は全額実費で約7万~20万円程度で病院により異なる。(状況により医療費控除や公的助成金の対象となる場合もある。)
・多くは日帰り手術が多く、大半の病院では前日子宮の出口を拡げる処置で通院が必要(一部手術当日で対応してくれる病院もある)。
・点滴しながら静脈麻酔を行い、眠った状態での手術がほとんどで手術中の記憶がないことがほとんどである。(記憶がない分、精神的な負担は軽減されることが多い。)麻酔による副作用で吐き気や頭痛が出ることがある。
・現在手術の方法は、子宮内を傷つけることを避けるため、子宮内を吸引する方法が推奨されている。昔は掻把(そうは)と言って匙(さじ)のようなもので子宮内を掻き出すような手術であった。現在でも子宮内の治療が必要な場合は掻把を選択する先生もいる。
・手術自体に子宮穿孔(子宮が破ける)や子宮への感染、出血などのリスクがある。掻把術の場合は次回妊娠の際に早産率が上昇したり、内膜が育ちにくい等不妊症のリスクが上昇したり、子宮に傷が入ることで子宮腺筋症のリスクが上昇したりする。
・術後は生理痛のような痛みが数日~1週間程度続く場合がある。
・術後は手術翌日、手術1~2週間後の診察を受けて問題なければ終了するケースがほとんどである。それまでは湯舟につかること、性行為をすることは避けるように指導される。
【中期中絶】
・妊娠12週0日~21週6日までの中絶
・費用は全額実費で約30万~80万円程度で病院により異なる。(健康保険加入者であれば出産一時金として約50万円相当が支給される。その他医療費控除の対象となるケースもある。)
・一般的に3日~7日程度の入院が必要であり、多くの病院では入院当日に子宮の出口を拡げる処置を行う(水分で膨らむ細い棒を2回ほどに分けて何本か挿入するが、挿入時に痛みがあったり、挿入後も生理痛のような痛みが起こることがある)。翌日からは子宮の中に風船のような器具を入れて点滴や腟剤を投与して子宮の収縮を促すことが多い。徐々に陣痛が起こり、強い生理痛のような痛みを感じる。陣痛が起こることで胎児が排出されるため、陣痛を弱めてしまう鎮痛薬を使用しないケースも多い。無痛対応を行うクリニックもあるが、その分の費用が掛かること、痛みを抑えることで胎児排出まで時間がかかることも想定されるため、きちんと対応している病院への確認が必要となる。初産婦か経産婦によっても異なるが、陣痛を促す薬剤効果には個人差があるため、胎児が排出されるまで数日要する場合がある。という観点からも中絶可能なぎりぎりの週数での対応は難しいケースもあるということは重々確認が必要である。
・胎児の排泄後に、胎盤などが残っていないか、子宮の状態を確認する処置が必要となる。手術自体に子宮穿孔(子宮が破ける)や子宮への感染、出血などのリスクがある。初期中絶に比べて中期中絶では子宮が大きくなっているため、子宮穿孔や出血のリスクは上昇する。状況によっては輸血を必要とする場合もある。
・中期中絶後は妊娠のホルモンの影響で母乳が出る場合があり、ほとんどの場合は2週間程度で減少、消失するが、母乳を完全に抑える薬を服用する場合もある。
・基本的に退院できるのは分娩翌日の診察後である場合が多い。
・中期中絶後はきちんと役所に死産届を提出し、火葬許可証をもらってから胎児を火葬によって埋葬することが義務づけられている。ただし、妊娠22週未満の死産は出生届は提出しないので戸籍に残ることはないと言われている。死産届は死産から7日以内に提出しなければ罰則が科せられる場合もある。分娩費用に火葬費用が含まれない場合は火葬費用が別途かかることも想定しておく必要がある(赤ちゃんに対しての供養の方法によって費用は様々である)。
・術後は手術翌日、手術2週間後の診察を受けて問題なければ終了するケースがほとんどである。それまでは湯舟につかること、性行為をすることは避けるように指導される。
以上、説明しましたが、どうしても中期中絶は母体への負担が大きくなり、また一人ですべて抱えなければならない状況下では死産届の提出や火葬などの過程は身体的にも大変です。また、排出された胎児は子宮から出たばかりのときは息をしていることも多く、また誰がみてもわかる程度には人の形をしています。その胎児を自分で見て、手を握ったり、抱っこする人もいれば、精神的に辛くて見れない人もいます。
中絶には賛否両論ありますが、どうしても女性の負担は身体的にも精神的にも大きいのが現実です。
そういう意味で避妊は大切であるということが分かります。
今後もアフターピルの需要は尽きないでしょう。だからこそきちんと理解した上で内服してほしいと考えています。
今回はあくまで一般的な流れをお伝えしました。今後法制度や医療の進歩によって方法が変わることも想定されますが、現状はこのような流れが多いと言われています。
また、最近は妊娠9週までであればメフィーゴパックという飲み薬による中絶も行われています。2剤で構成されており、1剤目を内服したのち36~48時間後に2剤目を内服し、24時間程度で胎嚢(胎児の袋)の排出がみられるというものです。成功率は約93%と報告されており、子宮内の処置を必要としないため、成功すれば子宮に傷がつくことはありません。費用は初期中絶とほぼかわらないと言われているものの、2剤目の内服かた排出にかかる時間が読めず、また出血が多くなることが懸念されるので、入院での待機になります。計画的に対応したい方には不向きであり、また、成功しない場合は吸引処置を要するため、費用が倍以上になってしまうこともあり得ます。そのようなことも考慮するとご自身の身体的負担、経済的負担、時間的制約なども考慮して最良な方法を選択することが望ましいと考えます。
様々なお悩みの方を診察させていただくにあたり、医療者として色々なことを考えるきっかけを頂いております。
今回はアフターピルとその後の中絶についてでしたが、今後も患者様のお悩みのリクエストがございましたら、こちらでもご説明させていただければと思います。
受診の際に疑問などありましたら是非お気軽にお知らせください。
ヴィオラクリニック 院長